強皮症・筋炎の診断・治療について

強皮症 患者さん・一般の方へ

強皮症とは

強皮症は皮膚や全身の臓器が硬くなる病気です。この硬くなる病態を「線維化」と呼びます。皮膚が硬くなることが強皮症の特徴的症状で、個々の患者さんで経過や病状は異なりますが、皮膚以外にも肺や肺動脈、消化管、腎臓、心臓にも線維化をきたし、進行すると機能障害をきたすこともあります。血管障害や自己免疫異常により線維化が引き起こされると考えられます。

強皮症の主な症状

1) レイノー現象

 強皮症では初期にはほぼ全ての患者さんでレイノー現象と呼ばれる症状がみられます。これは寒冷刺激や喫煙、精神的緊張などにより引き起こされる手指・足趾の一時的な血管の収縮(=攣縮)で、誘発時に白(重度の場合は紫)、その後に赤くなり回復します(元に戻る)。
レイノー現象は強皮症をはじめとした膠原病の診断のきっかけになる重要な症状です。

2) 皮膚硬化

 皮膚硬化の自覚症状には手指が「硬くなった感じ」「むくんだ感じ」「突っ張った感じ」「(指輪が入らなくなったなど)太くなった感じ」、関節が「曲げにくくなった」「伸ばしにくくなった」などがあります。
 強皮症には限局皮膚硬化型とびまん皮膚硬化型の2つのタイプがあります。どちらのタイプも指先や足先から皮膚硬化が始まりますが、限局皮膚硬化型は肘や膝まで(顔の硬化はあっても良い)、びまん皮膚硬化型はそれよりも体幹側へ硬化が及びます。びまん皮膚硬化型強皮症ではレイノー現象は皮膚硬化とほぼ同時期か半年程度の時間差で発症します。限局型強皮症はレイノー現象が年単位で先行し、ゆるやかに皮膚硬化が進行します。
 また、皮膚の色が黒ずんだり(色素沈着)、部分的に白く色素が抜け落ちること(色素脱失)もあります。手足の血行障害がひどい場合には、指先、つま先などの皮膚に潰瘍が生じることもあります。
 手指の関節が曲がったままの状態となったり、手首、肘、膝などの関節に痛みがでたり、動かしにくいこともあります。

3) 内臓関連の症状

 強皮症でみられる内臓病変で頻度が高いのは上部消化管障害(逆流性食道炎)や肺の線維化(間質性肺疾患)です。「逆流性食道炎」では、胸焼けや胸のつかえ感が、「間質性肺疾患」では病状が進行すると、空咳や息苦しさが、自覚症状として認めます。
肺動脈の内腔が狭くなり肺動脈の血圧が上昇する「肺動脈性肺高血圧症」は、強皮症でみられる合併症の一つで、進行すると心臓に負担がかかり、動悸や息切れがみられます。また、心臓の筋肉が線維化により硬くなること(心筋症)があり、脈の乱れや息切れが生じることもあります。日本人での頻度は低いですが、腎臓の血管に障害が生じ、急激に腎障害が出現する「強皮症腎クリーゼ」では、急激な血圧上昇に伴い頭痛や吐き気が症状として、出現することがあります。

検査

1) 皮膚病変(皮膚硬化)の範囲

 診察にて、皮膚をつまむことで皮膚硬化の範囲が、「限局皮膚硬化型」か「びまん皮膚硬化型」か判断します。

2) 毛細血管異常の検出

 強皮症の病気の特徴の一つとして、「血管障害」があります。病初期から血管障害を認めるため、この血管病変をみつけることが、強皮症の早期診断に有用です。具体的には、爪の付け根(=爪郭)は毛細血管を肉眼的に観察できる<窓>とされ、専用の顕微鏡(ダーモスコピーないしキャピラロスコピー)を用い爪郭の毛細血管を観察することで、毛細血管異常の有無を確認します。

3) 自己抗体の検出

 血液検査では抗核抗体という検査が約95%で陽性となります。また、抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼI)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体、抗(U1)RNP抗体など「自己抗体」と呼ばれる病気に特異的な抗体が、強皮症患者さんの血液中に高頻度に検出されます。また、これら各自己抗体ごとに強皮症の症状に特徴があり、診断や治療方針を検討する上で参考になります。

4) 内臓病変の評価

 肺病変のスクリーニングには胸部単純レントゲン写真、胸部CTを用います。間質性肺疾患がある場合、さらに肺活量などの呼吸機能検査で肺障害の程度を評価します。
 肺動脈性肺高血圧症や心筋症のスクリーニング検査として、心電図、血中の心臓マーカー(BNPないしNT-PRO BNP)の測定や心臓超音波検査を実施します。
 逆流性食道炎や食道の動き(蠕動)に異常がないか確認するために、内視鏡や食道内圧検査を実施します。

診断

 レイノー現象や皮膚硬化を認めた場合には、強皮症が疑われます。爪郭の毛細血管の評価、自己抗体検査など上記に挙げた検査を行い、その他の病気を鑑別した上で、強皮症の診断を進めていきます。
 また、強皮症である場合、皮膚硬化の分布と病状の進行する速さ、臓器病変の併発の有無、臓器病変の重症度を包括的に評価することが、治療方針を決定する上で重要です。

治療

 皮膚硬化や臓器病変が進行し機能障害をきたしている、あるいは今後、きたす恐れのある患者さんが治療対象となります。治療の目的は皮膚硬化の進行ピークを抑え、臓器の機能障害の進行を抑えることです。
 強皮症の皮膚硬化や間質性肺疾患の進行を抑えるための治療は、以下にあげる免疫抑制薬や抗線維化薬の投与がなされています。

1) シクロホスファミド

 間質性肺疾患を合併した強皮症患者さんを対象とした臨床試験で、間質性肺疾患の進行抑制、皮膚硬化の改善がみられました。しかし、シクロホスファミドは副作用も多いため、使用には慎重な判断が必要です。

2) ミコフェノール酸モフェチル

 シクロホスファミドとほぼ同等の皮膚硬化の改善、肺機能の改善を認めました。やはり慎重な投与が必要な薬剤ですが、副作用はシクロホスファミドより比較的少なく、欧米ではミコフェノール酸モフェチルは強皮症に伴う間質性肺疾患の治療や皮膚硬化に対し広く用いられています。

3) ニンテダニブ

 線維化を抑制する作用のある薬剤です。強皮症の間質性肺疾患に対し、2019年12月から保険適応薬となりました。免疫抑制薬では効果が不十分な間質性肺疾患の患者さんでは、ニンテダニブの投与が考慮されます。一方、ニンテダニブ の皮膚硬化に対する有用性は現時点で不明です。副作用として下痢が高頻度にみられることから、小腸・大腸の消化器病変を有する方に投与する際には慎重な対応が必要です。

 その他、肺動脈性肺高血圧症では肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE-5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、プロスタサイクリン誘導体、プロスタサイクリン受容体作動薬)、逆流性食道炎は胃酸を抑える薬剤(プロトンポンプ阻害薬・カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)の投与を検討します。小腸や大腸の消化管機能障害は腸管安静で改善することも多いですが、病状が改善しない場合には経腸栄養、点滴栄養が必要なことがあります。強皮症腎クリーゼでは、アンギオテンシン変換酵素阻害薬の治療により予後が改善しています。

患者さんへ一言

 強皮症の症状が軽くても重要な臓器障害が隠れていることもあります。また、早い時期の治療は、その後の臓器障害の進行を抑制できる可能性があります。
強皮症が疑われる症状を自覚されている場合には、早めの専門医療機関への受診をお勧めいたします。
強皮症の専門医と非専門医を見分けることは簡単です。以下が参考になります。

  • 診断のために皮膚生検を求める
    →診察のみで容易に診断できますので、皮膚に傷をつける生検は不要です。ただし、研究目的で実施することはあります。
  • 胸部聴診をしない
    →頻度の高い心肺病変は聴診で状態がわかります。
  • 全身の皮膚をつままない
    →皮膚硬化の変化を知ることで今後の病状予測ができます。
  • 血圧を測らない
    →腎クリーゼは血圧を測れば早期発見できます。また血管を広げる薬のおもな副作用は低血圧です。
  • 治療にステロイドを使用する
    →ステロイドには効果を示す科学的エビデンスはなく、むしろ副作用が強皮症の合併症を悪化させます。ただし、関節痛や皮膚のかゆみ、むくみなどに対して少量を使用することはあります。
  • 使った薬が効いたと説明する
    →多くの患者さんで経過とともに自然に皮膚硬化は改善するので、個々の治療の効果を判断することはできません。

強皮症 医療従事者の方へ

強皮症とは

 強皮症は、皮膚および様々な臓器の「血管内皮障害」、「自己抗体産生」、「線維化」の3つを特徴とする結合組織疾患です。強皮症の患者さんでは、Raynaud現象(末梢血管障害)、自己抗体産生(免疫異常)、ついで線維芽細胞の活性化による皮膚・内臓の線維化をきたします。
 強皮症は線維化により皮膚は硬くなり、様々な臓器にも機能障害をきたします。主要臓器に高度な線維化をきたす場合、特に肺病変(間質性肺疾患)、肺動脈病変(肺動脈性肺高血圧症)、心病変(心筋線維化に伴う心筋症)、消化管病変(吸収不良症候群、偽性腸管閉塞)、腎病変(強皮症腎クリーゼ)が生命予後に影響します。

強皮症の主な症状

1) Raynaud現象

 強皮症でほぼ必発であり、重要な所見です。これは寒冷刺激や喫煙、精神的緊張などにより誘発される一過性の血管攣縮で、誘発時に白(重度の場合は紫)、その後一過性に赤くなり回復します(元に戻る)。

2)皮膚硬化・皮膚潰瘍・関節拘縮

 強皮症の最も主要な所見です。皮膚硬化が肘や膝を超えて遠位に留まれば限局皮膚硬化型(顔の硬化はあっても良い)、近位に及べばびまん皮膚硬化型と分類します。皮膚硬化が、指先から近位にかけて広がる点が、本疾患の特徴です。
 びまん皮膚硬化型強皮症ではRaynaud現象は皮膚硬化とほぼ同時期か半年程度の時間差で発症します。限局型強皮症はRaynaud現象が数年から数十年先行し、緩徐に皮膚硬化が出現・進行します。びまん皮膚硬化型強皮症は発症1〜5年程度で皮膚硬化はピークとなり、その後、一定程度軽快します(萎縮期)1。
 血流障害を反映して、手指・足趾の潰瘍や手指尖端の陥凹性瘢痕が生じます。また、手・肘・膝関節などに関節痛・関節炎が生じ、手指関節の屈曲拘縮をきたすこともあります。

3)内臓病変に関連した症状

 早期びまん皮膚硬化型強皮症で皮膚硬化が進行途上の症例では生命予後に影響を及ぼす主要臓器病変が出現するリスクがあり注意が必要です。
 逆流性食道炎は強皮症で高頻度にみられ、胸焼け、食事のつかえ感を認めます。ます。間質性肺疾患、肺高血圧症、心病変の合併を示唆する所見としては易疲労感、乾性咳嗽、労作時息切れ、胸痛、動悸、不整脈などがあります。腎クリーゼがみられた場合には速やかな対応が必要です。腎クリーゼを疑う所見には新たに出現した高血圧、急性腎不全であり、急激な血圧上昇に関連して、頭痛、めまい、嘔気、嘔吐など体調不良を呈することがあります。下部消化管病変として、吸収不良症候群、偽性腸閉塞が生じ、腹部膨満感、便秘、下痢が生じることがあります。

検査

1)皮膚硬化の病変分布

 診察にて、スキンスコアを算出し、皮膚硬化病変の分布の把握を行います。皮膚硬化が肘や膝より遠位に留まれば限局皮膚硬化型となりますが、その際には、限局皮膚硬化型、びまん皮膚硬化型の萎縮期、あるいは、びまん皮膚硬化型の早期例のいずれかとなり、今後の治療方針を検討する上で、その鑑別が極めて重要です1。

2) 毛細血管異常の検出

強皮症の疾患特徴の一つに血管障害に伴う病態があります。これは病初期から認めるため強皮症の早期診断に有用です。爪郭は毛細血管を肉眼的に観察でき、ダーモスコピーやキャピラロスコピーを用い爪郭の毛細血管を観察し血管障害を評価します。

3)抗核抗体・自己抗体の測定

 強皮症患者では抗核抗体は約95%で陽性となります。強皮症で特異的に検出される自己抗体のうち、抗Scl-70抗体(抗トポイソメラーゼI)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体、抗(U1)RNP抗体が日常診療で測定でき、これら4つの自己抗体で強皮症患者の80%が網羅されます1。各自己抗体ごとに比較的均質な臨床的特徴を有し、臨床経過や生命予後の予測を行う上で、自己抗体の同定は有用です。
 抗Scl-70抗体や抗RNAポリメラーゼIII抗体はびまん皮膚硬化型、抗セントロメア抗体は限局皮膚硬化型で高頻度に認めます。抗Scl-70抗体陽性強皮症は間質性肺疾患、心筋線維症、下部消化管機能障害を合併しやすいとされます。抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性強皮症は、間質性肺疾患の頻度は低いですが、皮膚硬化が急速に進行し、発症時に悪性腫瘍の併発や腎クリーゼに注意を要します。一方で、抗セントロメア抗体陽性強皮症は発症早期には重篤な臓器障害の併発は少ないですが、10年以上の経過で肺動脈性肺高血圧症や心筋障害が顕在化することがあります。また、抗核抗体陰性強皮症の症例では、びまん皮膚硬化型を呈することが一般的で、抗核抗体陽性症例と比較して、男性の割合が多く、肺動脈性肺高血圧症や手指潰瘍などの血管病変は少ないですが、下部消化管病変を呈する頻度が多いとされています。

4)内臓病変の評価

 間質性肺疾患のスクリーニングには胸部単純レントゲン写真、KL−6の測定、胸部HRCTを用います。間質性肺疾患が明らかな場合には、さらにDLco含めた呼吸機能検査や6分間歩行試験で肺予備能を評価します。
 肺高血圧症や心筋障害のスクリーニングには、心電図、BNPないしNT-PRO BNPの測定、心臓超音波検査を施行します。これらの検査で肺高血圧症が疑われる場合には、6分間歩行試験、肺換気血流シンチグラム、右心カテーテル検査、肺動脈造影など精密検査を行い、肺高血圧症の鑑別および重症度の評価を行います。また、心筋病変の存在を疑う場合には、心筋MRI、核医学検査、左室造影、心筋生検を考慮します。
 逆流性食道炎や食道蠕動障害の評価として、上部消化管内視鏡や食道内圧検査を実施します。

診断

 ACR/EULARによる分類基準が2013年に示されました(表)2。これは早期例、軽症例も取り込める様に作成されています。手指硬化がMP関節を超えていれば、スコアは9点で強皮症と分類できますが、手指硬化がMP関節を超えず遠位にとどまっていても、その他の項目(例えば、Raynaud現象、抗セントロメア抗体陽性)があれば強皮症と分類できます。この基準の感度、特異度は95%, 93%と高く、感度・特異度ともに優れています。本基準は除外診断のできる専門医による評価を前提とし、診断基準ではなく、あくまでも分類基準であることに注意が必要です。

表. 2013 ACR/EULARによる強皮症の分類基準

項目 ポイント(重み)
手指硬化がMP関節を超えて近位まで存在(近位皮膚硬化) 9
手指の皮膚硬化 (ポイントの高い方を採用) 手指腫脹 2
MP関節よりも遠位に限局した皮膚硬化 4
爪郭毛細血管異常 2
毛細血管拡張 2
肺病変 肺動脈性肺高血圧症
間質性肺疾患
2
Raynaud現象 3
SSc関連自己抗体
(いずれか陽性)
抗セントロメア抗体
抗Scl-70抗体
抗RNAPIII抗体
3

ポイントの合計が9点異常でSScに分類できる。
皮膚硬化を有するが手指の皮膚硬化を欠く例、臨床所見を説明できる他疾患を有する例には本基準を適応しない。

治療

治療目標:皮膚硬化のピークを抑え、臓器機能障害の進行を抑えることです。
 皮膚硬化や臓器病変が進行し機能障害をきたしている、或いはきたす恐れのある患者さんが治療対象となります。

治療法:強皮症の自然歴を修飾する薬剤、すなわち疾患修飾薬は免疫抑制療法とされています。

1)シクロホスファミド

 間質性肺疾患を合併した強皮症症例に対するプラセボ対象無作為化比較試験で、間質性肺疾患の進行抑制、皮膚硬化改善がみられました。しかし、経口シクロホスファミドは有害事象も多く、近年、実臨床では用いられることは少なくなりました。総投与量を抑制、副作用を減らすために、実臨床では間歇静注療法 (IVCY) が用いられることもあります。

2)ミコフェノール酸モフェチル

 経口シクロホスファミドとの比較試験で、ほぼ同等の皮膚硬化改善、肺機能改善を認め、かつ、有害事象も低頻度でした。この結果より、欧米ではミコフェノール酸モフェチルは強皮症に伴う間質性肺疾患の治療や皮膚硬化に対しシクロホスファミドの代替治療薬として用いられています。

3) ニンテダニブ

 チロシンキナーゼ阻害薬のニンテダニブは抗線維化作用を有します。強皮症の間質性肺疾患に対し、2019年12月から保険適応薬となりました。免疫抑制薬では効果が不十分な間質性肺疾患の症例では、ニンテダニブ が考慮されます。ニンテダニブ の皮膚硬化に対する有用性は、現時点で不明です。副作用として下痢が高頻度にみられることから、消化器病変を有する症例に対する投与には慎重な対応が必要です。
その他、肺動脈性肺高血圧症では肺血管拡張薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE-5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、プロスタサイクリン誘導体、プロスタサイクリン受容体作動薬)、心筋線維化による心機能障害には利尿薬やCa拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬などが用いられます。
 消化管病変として、逆流性食道炎はプロトンポンプ阻害薬が用いられます。また、下部消化管障害では腸管安静で改善することも多いですが、重症例では経腸栄養、中心静脈栄養が必要な場合があります。
 強皮症腎クリーゼは以前には予後不良な合併症とされていましたが、現在ではアンギオテンシン変換酵素阻害薬による治療により著しく予後は改善しました。

医療従事者の方へ一言

 爪郭毛細血管異常は強皮症の発症早期から認める重要な所見です。早期診断により事前に生命予後不良が予測される群を抽出することで、生命予後の改善をもたらすことが可能となってきました。強皮症を疑われた患者さんを診察された場合は、一度、専門医の受診を患者さんへ促していただき、できるだけ早いうちに是非一度当センターにご紹介ください。

参考文献

  1. 桑名正隆:全身性硬化症(強皮症)の早期診断と治療.日本内科学会雑誌 105 (9) :1864-1689, 2016.
  2. Van den Hoogen. 2013 Classification Criteria for Systemic Sclerosis: An American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism Collaborative Initiative. 2013 Arthritis Rheum; 65(11): 2737-47, 2013.

筋炎 患者さん・一般の方へ

筋炎とは

 筋炎は、文字どおり、筋肉に炎症が生じる病気です。筋肉に炎症が生じると、筋肉痛が出現したり、炎症が生じている筋肉を動かすのに力が入りにくくなり、日常生活の動作に支障をきたします。ウイルスなど微生物、薬物など様々な原因で筋肉に炎症が生じますが、当センターで扱う筋炎は、微生物から自分の身をまもる免疫応答が、どういうわけか、自分の筋肉を攻撃してしまい、自己免疫応答の異常により生じる筋炎で、膠原病の一種にあたります。具体的には、皮膚筋炎、多発性筋炎、免疫介在性壊死性筋症が、当センターで扱う主な筋炎となります。

主な症状

 皮膚筋炎の患者さんでは、主に発疹(皮膚炎)と、手足の筋肉痛や力が入りにくい(筋炎)という症状がみられます。
 典型的な発疹としては、うわまぶたが赤く腫れぼったくなったり(ヘリオトロープ疹)、手指、肘、膝の関節の伸びる側の皮膚表面が赤くなったり、皮がむけて皮膚の表面がやや厚ぼったくなります(ゴットロン徴候、ゴットロン丘疹)。また、患者さんによっては、頭皮・顔・首回り・お腹・背中・お尻の側面の皮膚が赤くなり、時にかゆみを伴うことがあります。
 筋肉の症状として、「洗濯物を干す、物を持ち上げる、立ち上がる、階段を上る」などの肩や太ももの筋力が落ちます。なかには、筋肉痛、発熱、全身倦怠感、関節痛を伴うこともあります。

 一方、多発性筋炎や免疫介在性壊死性筋症の患者さんは、皮膚症状を伴わずに筋肉の症状が主体となります。また、皮膚筋炎に特徴的な発疹を認めるも、筋炎症状が乏しいこともあります。

検査

 確定診断および、病変の広がりや重症度に基づく治療方針を決定するために以下の検査を行います。

1)筋肉に関する検査:徒手筋力テスト、血中筋原性酵素の測定、筋電図、筋MRI、筋生検

 診察で全身の筋力の強さを評価(徒手筋力テスト)し、筋炎の重症度を評価します。血液検査では、筋肉に関連した酵素(筋原性酵素:クレアチニンキナーゼ[CK]、アルドラーゼなど)の数値を調べます。また、筋肉に細い針を刺して筋肉の状態を調べる筋電図や、場合によってMRIで筋肉の中の炎症部位や広がりを評価します。
 筋肉の病気をきたす他の疾患の鑑別や筋炎の確定診断として、腕ないし太ももから筋肉を採取して、顕微鏡で筋肉の状態を評価する「筋生検」を行います。

2)皮膚炎の鑑別:皮膚科での診察、皮膚生検

 皮膚科医の診察で皮膚筋炎以外の病気がないか鑑別を行い、皮膚の赤みのあるところから皮膚を一部採取して(皮膚生検)、皮膚炎の原因が皮膚筋炎に伴うものか判断することもあります。

3)内臓病変

 筋炎の病気と関連して、肺や心臓に炎症が生じることもあるため、治療前に心電図、胸部のレントゲン、断層写真(CT)、肺活量(肺機能)の検査を行い、肺や心臓の状態を評価します。

4)血中自己抗体の検出

 抗体とは、本来、微生物など自分と異なる異物に対して結合して、体外から排除する役割を担っていますが、筋炎の患者さんの大半で、自分の細胞内の様々な成分に対して抗体(自己抗体)が血液中に検出されます。筋炎患者さんで最も頻度の高い自己抗体は、抗アミノアシルtRNA合成酵素 (ARS) 抗体で、約3割の患者さんで血液中に認められます。また、皮膚筋炎の患者さんでは、抗melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA-5) 抗体、抗transcriptional intermediary factor 1γ (TIF1-γ) 抗体、抗Mi-2抗体のいずれかが陽性に認められることもあります。また、当センターでは、研究室において、上記以外の筋炎に特異的な自己抗体の測定を行なっております。

診断

 皮膚筋炎に特徴的な発疹(ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候ないしゴットロン丘疹)を認めた、筋力低下など筋炎の症状が明らかな場合には、皮膚筋炎の診断に至ります。また、皮膚筋炎の発疹を認めるも、筋症状が乏しく、上記の検査にて筋炎の所見を認めないあるいは軽微に認めるのみであれば、臨床的無筋症性皮膚筋炎と診断になります。
 一方、明らかな発疹を認めず、筋生検で筋肉の繊維を取り囲むように炎症細胞(Tリンパ球)を認める場合には多発性筋炎と診断します。
 また、筋肉の繊維の周りには、炎症細胞が多く認められないも、筋肉の繊維が壊れて(壊死)いる所見と筋肉の繊維が再生している所見が混在し、筋肉の繊維の周りに炎症のタンパク質(補体・免疫グロブリン)の沈着を認めた場合には、免疫介在性壊死性筋症と診断します。

治療

筋炎の治療

1)副腎皮質ステロイド薬

筋炎の治療の第一選択薬は、副腎皮質ステロイド薬となります。副腎皮質ステロイド薬の治療量は、病状の重症度や併発症に応じて調整します。通常は、副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン換算として)体重1kgあたり0.6-1.0mg (体重50kgの方は30-50mg)を内服で開始します。2週間、同量を継続し、1-2週ごとに10%ずつ減量し、最終的に5mgまでの減量を目指します。その後も可能なかぎり、プレドニゾロンを減量します。

2)免疫抑制薬

副腎皮質ステロイド薬の単剤の治療では、薬剤の減量に伴い再燃を来したり、副腎皮質ステロイド薬の総投与量増大に伴う副作用の出現が問題となることから、可能な限り免疫抑制薬を併用します。免疫抑制薬を早期から併用することで、副腎皮質ステロイド薬の速やかな減量が可能となり、副腎皮質ステロイド薬関連の副作用の軽減を図りつつ、筋炎の再燃予防としての維持療法の役割も担います。
免疫抑制薬の選択は、患者さんの病状や併発症に基づいて、検討しております。

3) 免疫グロブリン大量静注療法

 上記の通常の副腎皮質ステロイド薬による治療で筋炎の病状が改善しない場合には、点滴で免疫グロブリンの静脈投与を1コース(5日間連続)行うこともあります。

筋炎関連の肺病変や心病変の治療

 筋炎に関連して肺や心臓の筋肉に炎症が生じる間質性肺疾患や心筋炎では、上記の筋炎の治療と同様に副腎皮質ステロイド薬の内服で治療を行います。肺や心臓の病変が生命の危険にさらされていると判断した場合には、副腎皮質ステロイド薬の大量静脈投与(メチルプレドニゾン換算500-1,000mg/日)を3日間行うステロイドパルス療法を併用することもあります。原則、免疫抑制薬の投与を行いますが、病状に応じて、免疫抑制薬の種類の選択を検討します。

皮膚炎の治療

 皮膚炎に対しては、局所治療としてステロイドや免疫抑制薬の軟膏塗布と遮光対策を心がけていただきます。

筋炎 医療従事者の方へ

特発性炎症性筋疾患とは

 文字通り、特定の原因が明らかでないも筋肉に炎症が生じる疾患の総称である。
 主に、皮膚筋炎、多発性筋炎、免疫介在性壊死性筋症、封入体筋炎の4つに分類される。自己免疫応答異常により筋肉に炎症が生じ、筋痛や筋力低下をきたす疾患である。皮膚筋炎では顔面や四肢、体幹に皮膚炎をきたす。国内の疫学調査では、推定患者数は約17000人、男女比は約1:3で、成人の発症年齢のピークは50歳代であるが、若年から高齢者まで幅広く認められる1。本疾患では間質性肺疾患、心筋障害、悪性腫瘍の併発がしばしばみられ、これらは予後不良因子でもあり、各々の併発症に対する適切なマネジメントが求められる。

臨床的特徴

表1に筋炎患者の臨床症状とその頻度を示す。

表1 多発性筋炎/皮膚筋炎の臨床像とその頻度 (新規患者1459名)

臨床症状 頻度
皮疹
ヘリオトロープ疹 30%
Gottron丘疹 42%
四肢の近位筋の筋力低下 88%
筋痛 74%
関節痛 42%
発熱 40%

文献1、2を参考に一部改変

1)皮疹

 研究を目的として作成されている皮膚筋炎の国際分類基準では、ヘリオトロープ疹ないしGottron (ゴットロン) 丘疹/徴候を満たすことが条件となっているが、実臨床の診断において、これら定型疹を認めないことがある。ヘリオトロープ疹とは、両側ないし片側に上眼瞼部の浮腫を伴った紅斑である。また、手指の関節背面に隆起を伴う紅色の丘疹をGottron丘疹という。また、膝や肘の関節背面に紅斑を認める場合には、Gottron徴候という。

2)筋症状

 筋肉に炎症が生じた結果、四肢の近位筋優位の筋力低下をきたす。物を持ち上げる、椅子から立ち上がる、階段の昇降、寝返りをうつなど、上下肢帯・体幹の筋力低下に起因した日常生活動作の支障が生じる。時に、高齢での筋炎患者では、介助を要する程の筋力低下と合わせて、嚥下障害を伴い、赤みの強い皮疹や悪性腫瘍の併発を認めることがある。

3)関節症状

 抗aminoacyl-tRNA synthetase (ARS) 抗体や抗melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA-5) 抗体の陽性例では、手指、手、肘、膝に多発関節炎を認めることがある。

4)発熱

 PM/DMでは一般的に高熱を認めることは少なく、微熱にとどまることが多い。

検査所見

1)筋原性酵素の上昇

筋原性酵素として代表的なものはクレアチンキナーゼ (creatine kinase:CK) やアルドラーゼである。肝酵素であるaspartate aminotransferase (AST) も筋原性酵素でもあるため、筋炎で症状する。また、皮膚筋炎のなかでも臨床的無筋症性皮膚筋炎では、筋炎症状が乏しいため、 CK値は正常ないし軽度上昇にとどまる。

2)炎症反応

 CRPは正常ないし1-3mg/dL前後と軽度高値を呈する程度のことが多い。筋炎関連間質性肺疾患でCRP 1mg/dL以上の際には、予後不良であることが近年明らかとなった3。また、血清フェリチン値500 ng/ml以上で間質性肺疾患を併発している際には、急速進行性間質性肺疾患の併発に注意を要する。また、PM/DMに血球貪食症候群を併発することも少なからずあり、その際にも血清フェリチン値は高値を呈する。

3)自己抗体

 筋炎患者の約8割では以下の表にあげた疾患に特異的な自己抗体 (myositis-specific autoantibody:MSA) のいずれか一つが血清中に認められる。各MSAは、臨床症状、治療反応性、予後と強くリンクしており、各症例でMSAを測定することは、その患者の経過を予測する上で極めて有用である。この中で、抗ARS抗体、抗 MDA5 抗体、抗 TIF1-γ抗体、及び、抗 Mi-2抗体は、日常の保険診療で測定可能である。表2にMSAと臨床的特徴を示す4。
 表2に示すように、抗ARS抗体、抗 MDA5 抗体、抗SAE抗体は間質性肺疾患併発と、抗SRP抗体と抗HMGCR抗体は、免疫介在性壊死性筋症の発症と、抗 TIF1-γ抗体、抗 NXP-2抗体、抗SAE抗体、抗HMGCR抗体は悪性腫瘍併発と、抗MDA5抗体と抗TIF1-γ抗体は予後不良と、抗 Mi-2 抗体は予後良好と関連がある。

表2. 筋炎特異自己抗体と臨床像との関連*

自己抗体 筋炎 DM皮疹 ILD併発 悪性腫瘍併発 生命予後
抗ARS抗体 時になし 時にあり 非常に高い 低い 比較的良好**
抗MDA5抗体 時にあり あり 非常に高い 低い 不良
抗TIF1-γ抗体 時になし あり 低い 非常に高い 不良
抗Mi-2抗体 あり あり 低い 低い 良好
抗NXP-2抗体 あり あり 低い 高い 良好***
抗SAE抗体 時になし あり 高い 高い 良好***
抗HMGCR抗体 あり なし 低い 高い 良好***
抗SRP抗体 あり なし 低い 低い 良好

DM, dermatomyositis; ILD, interstitial lung disease; ARS, aminoacyl-tRNA synthetase; MDA5, melanoma differentiation-associated gene 5; TIF1γ, transcriptional intermediary factor 1γ; NXP2, anti-nuclear matrix protein NXP-2; SAE, small ubiquitin-like modifier-1 activating enzyme; HMGCR, 3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase; SRP, signal recognition particle; DM, dermatomyositis
*各抗体の臨床像のプロファイルは典型例を示す。
**5年以内の短期生命予後は、抗MDA5抗体陽性例より良好
***悪性腫瘍が併発しない場合は、生命予後は良好。

併発症

 間質性肺炎や悪性腫瘍の併発は、PM/DMの予後規定因子といわれている。

(1)間質性肺炎

 約半数の症例で間質性肺疾患が認められる。なかでも、抗ARS抗体と抗MDA5抗体は、その他のMSAと比較して、約9割の症例で間質性肺疾患を併発する。また、近年、アジア諸国からの報告では、anti-SAE抗体陽性例の約半数にILDを認めることが明らかとなり、第3の間質性肺疾患併発と関連するMSAと考えられている。

(2)悪性腫瘍

 悪性腫瘍は、筋炎M診断時に約1割前後の症例で認められる。筋炎は、以前より傍腫瘍症候群の一つとして捉えられていた。そのため、筋炎の診断時や診断後数年以内は定期的に悪性腫瘍のスクリーニングを行う。近年、上記で挙げた抗TIF1-γ抗体が、癌の併発と強く関連していると言われ、特に60歳以上では高率に悪性腫瘍を併発するため、筋炎と診断後1年以内は特段の注意が必要である。

診断

 表3に示すBohan&Peterの基準が1970年代に示され、国際的に用いられている。ただし、この基準では、皮疹のない非炎症性筋症が多発性筋炎と誤って診断されてしまう可能性や、筋症状に乏しい臨床的無筋症性皮膚筋炎の診断を下すことができない。この点を注意して、本基準を用いる必要がある。

表53Bohan & Peterの多発性筋炎・皮膚筋炎診断基準(1975) 

項目
1.週ないし月単位で進行する上下肢帯・頸部屈筋の対称性筋力低下
2.筋原性酵素 (CK, アルドラーゼ、GOT、GPT、LDH) の上昇
3.筋電図で筋原性変化
short, small, polyphasic motor units
fibrillations, positive sharp waves and insertional irritability
bizarre, high frequency repetitive discharges
4.定型的筋病理組織所見:
  筋線維の変性、壊死、貧食像、萎縮、再生、炎症性細胞浸潤
5.定型的皮膚症状

Definite: PMは1-4の全て、DMは5を含めて4項目以上
Probable: PMは1-4の3項目以上、DMは5を含めて3項目以上
Possible: PMは1-4の2項目以上、DMは5を含めて2項目以上

一方、国内の状況として、筋炎の指定難病の診断基準 (https://www.nanbyou.or.jp/entry/4080)を参考に診断に用いられ、臨床的無筋症性皮膚筋炎の診断基準も設けられている。

筋炎の診断のポイントを以下に挙げる。

  • 頚部の屈曲筋群および四肢の近位筋優位の筋力低下・筋痛を認める。
  • 筋原性酵素(クレアチンキナーゼやアルドラーゼ)の上昇を認める。
  • 筋生検で各筋炎に特異的所見を認める、ないし、封入体筋炎や筋ジストロフィーなど非炎症性筋疾患の除外できる。
  • 皮膚筋炎の皮疹として、上眼瞼の浮腫を伴う紅斑(ヘリオトロープ疹)ないし手指の関節伸展部の紅斑(Gottron丘疹・徴候)を認める(ただしこれら定型疹を認めないこともある)。
  • 皮膚筋炎の皮疹を認め、臨床的に筋力低下および筋原性酵素の上昇が乏しい場合には、臨床的無筋症性皮膚筋炎と診断する。

治療

 厚生労働省自己免疫疾患に関する調査研究班内のPM/DM分科会により、PM/DMの治療ガイドラインが、作成・発刊されている5。

(1)治療ガイドラインによる初期治療のアルゴリズム

1)皮膚炎のみの症例

 まず、皮膚所見のみで筋炎や間質性肺炎などの内臓病変を伴わない場合は、遮光と局所療法が主体となる。

2)間質性肺疾患併発の筋炎症例

 間質性肺疾患を伴い、かつ、進行性の病変と判断した際には中等量〜高用量の副腎皮質ステロイド薬内服に免疫抑制薬の併用を考慮する。なかでも、診断時年齢60歳以上、診断時CRP 1mg/dL以上、診断時SpO295%未満の4つが、予後不良因子として同定された3。特に抗MDA5抗体陽性間質性肺疾患で、これらの予後不良因子を複数有する場合には、早期よりに治療を開始することが重要である。副腎皮質ステロイド開始と同時にカルシニューリン阻害薬やシクロホスファミド静注療法の併用が、国内の専門施設で行われている。
 一方、抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体陽性間質性肺病変は、ステロイド薬減量に伴い再燃を繰り返すことが多いため、初期から免疫抑制薬を併用し、ステロイド積算量および維持量の軽減に努める。
 また、低酸素血症を伴うなど重症な間質性肺病変と判断した際にはステロイドパルス療法を行う。

3)間質性肺疾患併発のない筋炎症例

 中等用量〜高用量の副腎皮質ステロイド投与と免疫抑制剤の併用療法を検討する。
 筋炎では、ステロイドミオパチーの併発がしばしば問題になり、海外のエキスパートらは、筋炎治療に対するステロイドの積算投与量を少しでも減量し、かつ寛解維持および再燃予防に努めるために、ステロイド開始初期よりメトトレキサート (本邦保険適応外) やアザチオプリンなどの免疫抑制剤の併用を行っている。
 また、ある一定期間、副腎皮質ステロイドの投与を行うも、十分な筋力低下の改善を認めず、血清CK高値を認める場合は、免疫グロブリン静注療法の追加も考慮する。
 病状が安定すれば、ステロイドの漸減を行う。半数以上の症例でPSL 5mg/day以下まで減量可能と思われる。

 
4)心筋炎併発の筋炎症例

 心不全や不整脈に対する対症療法を行いながら、中等用量〜高用量の副腎皮質ステロイド投与と免疫抑制剤の併用療法を検討する。エビデンスが確立した治療法はないが、シクロホスファミドパルス静注や免疫グロブリン大量静注療法の有効である症例が報告されている。

5)悪性腫瘍併発の筋炎症例

 まず、悪性腫瘍の治療を優先する。ただし、全身状態不良例や悪性腫瘍の病期進行例では、筋炎の治療を優先とする。

 

参考文献

  1. Tomimitsu H, et al. Epidemiologic analysis of the clinical features of Japanese patients with polymyositis and dermatomyositis. Mod Rheumatol. 2016;26(3):398-402. doi: 10.3109/14397595.2015.1091137. PubMed PMID: 26375202.
  2. 五野貴久ら: 多発性筋炎・皮膚筋炎の診療における最近の捉え方. 日本内科学会雑誌2016; 105(11): 2251-2258.
  3. Sato S, et al. Initial predictors of poor survival in myositis-associated interstitial lung disease: a multicentre cohort of 497 patients. Rheumatology (Oxford). 2018. Epub 2018/03/27. doi: 10.1093/rheumatology/key060. PubMed PMID: 29596687.
  4. 五野貴久:多発性筋炎・皮膚筋炎. リウマチ科:63(1);14-19, 2020.
  5. 多発性筋炎・皮膚筋炎 治療ガイドライン.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 多発性筋炎・皮膚筋炎分科会 編. 初版, 診断と治療社, 東京, 2015.