強皮症患者さんにおける、新型コロナウイルス感染症への対応について

患者さん向け

はじめに

  • 新型コロナウイス感染症が猛威を奮っています。多くは軽症ですが、高齢の方や基礎疾患をお持ちの方、癌化学療法を行なっている方など重症化しやすいことが知られています。
  • 強皮症は皮膚硬化だけでなく、多くの患者さんに肺や心臓、その他臓器病変を伴います。新型コロナウイルス感染症を合併した場合、間質性肺疾患など肺合併症、免疫抑制療法中の患者さんは、重症化に注意が必要です。
  • 世界強皮症財団 (WSF) ではヨーロッパリウマチ学会 (EULAR) と共同で医療従事者と患者さんへ診療の推奨を、想定されるよくある質問に対する回答形式で提示しました。2020年5月1日に医学ジャーナルにオンライン掲載されました(Matucci-Cernic M, et al, Ann Rhem Dis. 2020; 0: 1-3)。
  • 本センターの桑名が作成委員として参画しました。

なお、内容は2020年4月14日までの報告や状況に基づいたもので、新しい情報により今後更新される可能性があります。また、国によって状況が異なるので、一部内容に手を加えてあります。この推奨はあくまで包括的な内容です。患者さん毎に対応が異なる事項もありますので、主治医と相談の上で判断してください。くれぐれも体調管理に気をつけていただき、お元気でお過ごしください。

1. 強皮症の患者さんの新型コロナウイルス感染症にかかりやすいか?

  • 免疫抑制療法を受けている方、間質性肺疾患など肺合併症ある方はリスクが上がる可能性があります。ただし、リスクは重症度によりますので、間質性肺疾患のあるすべての方が高リスクということではありません。特に酸素療法を受けるなど症状の重い方は注意が必要です。

2. 服用している免疫抑制療法はやめるべきか?

  • 免疫抑制療法をやめるリスクと継続するリスクを考慮する必要がありますが、やめると強皮症関連の症状が悪化するかもしれません。新型コロナウイルス感染症を発症してなければ治療を継続が望ましいです。
  • ご本人、身の回りの方がCOVID-19に感染した場合は、主治医と相談の上、免疫抑制療法の中止も考慮されます。

3. 新型コロナウイルス感染症で重症化と関連する合併症は?

  • 強皮症以外に糖尿病、高血圧、心血管疾患、慢性呼吸器疾患を合併している場合、重症化のリスクがあります。

4. 新型コロナウイルス感染症の検査は全ての強皮症患者さんに必要か?

  • 強皮症患者さんであるから検査の必要性が上がるわけでありません。ただし、重症化と関連する合併症がある方は優先順位が高くなる可能性があります。国で事情が異なるため、保健所の指示に従ってください。

5. 強皮症患者さんでだるさ、咳、熱がある場合は?

  • 新型コロナウイルス感染症に関連する症状(熱、だるさ、頭痛、下痢、咳)が持続する場合は保健所の指示に従って検査を受けることを勧めます。
  • 検査の実施や結果を待つ間は自宅での隔離が必要です。この場合、万が一症状が悪化する可能性に備えて、家族など近親者と電話やオンラインを通じて緊密に連絡を取り合えるようにして下さい。
  • 新型コロナウイルス感染症が疑われる場合、胸部CTを施行すべきかについては、様々な意見があります。もともと強皮症には間質性肺疾患を高頻度に合併し、CTでその区別は困難な場合が多いことがその理由です。しかし、呼吸状態が急速に悪化した場はこの限りではありません。

6. 新型コロナウイルス感染症を発症したら免疫抑制療法はやめるべきか?

  • 免疫抑制薬の一時中断が原則ですが、免疫抑制療法の継続が重症化を抑える可能性もあります。
  • 強皮症そのものに治療がどのくらい必要か、治療継続により新型コロナウイルス感染症が悪化するリスクがどのくらいあるか、の両方を考慮して判断することが必要なため、主治医での相談が必要です。

7. 血管病変に対する治療はやめるべきか?

  • アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の服用が新型コロナウイルス感染症の重症化リスクとなる可能性が懸念されていましたが、その可能性を否定する報告もあります。レイノー現象、手指潰瘍、腎病変に対して使用している薬は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬も含めて継続してください。肺高血圧症に対する薬は中止により悪化する場合が多いことから、絶対にやめないで下さい。

8. 強皮症患者さんに、何らかの支持療法、予防対策は必要か?

  • 強皮症患者さんに特別な予防策はありません。基本的な予防対策、マスク、手洗い、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットが最も重要です。

9. 病院の受診はしないほうがいい?

  • パンデミックなどの医療崩壊が起きている場合は、落ち着くまで受診は控えたほうがいいでしょう。ただし、薬の継続は必要です。強皮症の病状によっては短期間での受診が必要な患者さんもおりますので、状況によっては電話診療などで主治医に相談することをお勧めします。

10. 感染したらどんな薬が有効か?

  • 強皮症だからといって特別な新型コロナウイルスの治療があるわけではありません。新型コロナウイルス感染症の治療については様々な治療薬の効果が検証されているところです。
  • 強皮症の治療として使用されることがある一部の薬(アクテムラ、プラケニルなど)は急性呼吸不全に至る重症な例で有効な可能性があります。ただし、細菌性肺炎を合併している場合にアクテムラで治療すると、肺炎がかえって重症化する場合もあるので、慎重な判断が必要になります。
  • WHOはステロイドの使用を推奨していません。高用量のステロイドは腎クリーゼのリスクを上げることもあります。
  • 入院した場合は血栓症の予防のため抗凝固療法の開始が勧められます。